そろそろ今日の仕事も片付こうかという夕暮れ。
今日は昨夜の大雨が嘘の様に晴れ、梅雨を忘れるとても暑い一日だった。
工房の戸締りをしていると、近くの林から蝉の声が響いた。
一匹の蝉だ。
今日というの日の暑さに一足早く飛び出してしまったのだろう。
一匹の蝉、
それは喜びか、1週間に7年間の全てを表現するかの様に轟く。
大きく大きく鳴く蝉は、もうすぐ夏がやってくる事を感じさせる。
「夏来タヨ~!(みーん)ボクココにイルヨ~!!(みーーん)一生懸命生キテルヨ~!!!(みーーーん)」
彼はそんな気分なのかなぁ、と思い、
なんだか少し高揚する気分で、ゆっくり戸をとじる。
スゥ~… ピタッ。
戸の鍵を閉めながら、急にもう一つの感情が沸き起こった!
「本当にそうか!?」
7年に1度、いや、彼にとっては一生に一度の蝉人生最大のイベントではないのか?
この1週間は彼の蝉界すべての同期生が集まるスペシャルウィークなのではないのか?
夏と言えば蝉、蝉と言えば夏!
近所の林ではアチラからコチラから蝉が鳴く。
僕も、私も、あなたも、彼も、気になるあの子や、いけ好かないアイツだって、
みんなが、 みんなで、歓喜の声をあげる。
だのにだ!!
今夜は同窓会。
学生時代、勉強は大嫌いだった。
仲間と集まってはヤンチャばかりで、相当人も傷付けてきた。
あれから7年、それなりに大きな仕事も任され、数人の部下を抱え、良い人間関係を築いてきたつもりだ、人生の勝ち組ではないかも知れないが、日々とても充実している。
前回の企画では、その成果の割りに上司にあまり評価されず、少し部下に当たってしまった。明日は飲みにでも誘ってちゃんと謝ろう。
その日はなんとか仕事を切り上げて会場に向かう。
あいつ等みんな元気でいるかな?
仕事にかまけてすっかり連絡を取らなくなってしまった。
みんな今頃何をしているだろう?しっかり夢に向かって歩いているだろうか?
風の噂であいつは結婚したと聞いた。
あの時のあの事をもう許してくれているだろうか?
みんな今の俺を見てなんて言うだろう?
会場となる店に着き、看板を確認してドアを開ける。
今日は仕事を忘れて楽しもう♪
「あれっ?だれもいない。。」
看板は確認した。場所は合ってる。
日付も、時間も間違いない。
ただ、同窓会は来月なのだ!!
人間ならいい、また来月来ればいい。
しかし、彼は蝉なのだ、来月は無い。
例えば私がもし蝉なら、鳴けないだろう。性格の差もあろうが、
私ならキョッロキョロしながら、目の前の人に「え?何?」と言われるような声で、
「みんー…? みー んー?」
程度がせいぜいだ。
そう思うと、いま、この戸の外から聞こえる蝉の声の主は、
私の想像を絶すような悲しみに打ちひしがれているのであろう。
「ちっくしょ~!(みーん)やっちまったぁ~!!(みーーん)誰もいねぇじゃぁ~~ん(みーーーん)」
一匹の蝉が鳴いている。
戸の鍵を急いでしめた。
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